大島海洋国際高校、大島一周チャレンジ!!

 

「でーるぞーーーーっ!」

 

伊豆大島波浮の港に声が響く。大島海洋国際高校セイリング部出艇の合図だ。

 

彼らは五日間、夏の部活合宿の中で大島一周にチャレンジした。

 

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自分で目標を作り、自分たちで航海計画を立て、それを自分たちで実行する。

部活の合宿には似つかわしくない、大きなチャレンジ。

 

僕たちスピリット・オブ・セイラーズのメンバー3人はそれぞれこの合宿にインストラクターとして参加した。

 

インストラクターと言っても技術的な面を教えに来たわけではなく、「チームとして動くこと」「チャレンジすること」の意味、このチャレンジを通して、自分たちの部活動がチームとして動いていくきっかけを作りに来た。

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大島に向かう前、天気予報は台風が近づいてきており、海況はよくない。大島に向かう船にも欠航が出るのではないかと不安になるくらい予報がどんどん悪くなっていく。

「大きな自然を相手にしたチャレンジに、小さなワークなんていらない」

そう言って応援してくれた人の声が聞こえる。

けれど、大島一周以前に、艇が出せるのかどうかすら怪しい。

 

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合宿初日から、自分たちのこの合宿の目標設定、チームとしてのゴールを決めたりと今までの練習をバリバリやるやり方とは違う合宿にチームから戸惑いと期待を感じる。

 

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天候への不安を持ちながらも全員が良いスタートを踏み出せた。

 

合宿中は朝08:20集合、昼休みを挟んで16:00か17:00まで練習。

19:00〜21:30までミーティングというギッチリのスケジュールだ。

チャレンジ中、練習内容は午前中は生徒自身で決めて、大島一周のための準備、航海計画、すべて自分たちで決めていく。体力的にもきつく、感情的になりやすいのではないかと心配していたことは起こらず、全員なんとか海に出てチャレンジを成功させたいという気持ちが伝わってくる。

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大島の海は厳しい。港は崖に囲まれていて風が巻いてしまい、港からでれば大きなうねりが押し寄せる外洋だ。海況が許さず出艇できる日が少ない。航海計画も自分たちがどこに向かい、どんな海況のなか航海していくのか、レースの経験は豊富でも、航海の経験はほとんどない彼らにはイメージが難しく、とても苦労していた。

 

 

スケジュール的には限界、計画は道半ば、準備は整わなず迎えた大島一周のチャレンジ前日。大島一周を想定してに無理がないかトライアルを開始した。

海況はうねりが強く雨により視界も悪い。条件付きの出航。

 

 

この“条件付き”の条件は、学校の教官の指導の元に判断されて、生徒自身がまだ活動できると判断してもすぐに帰港(ハーバーバック)しなくてはならないと言うもの。

条件内容は

・2艇同時に沈(艇が倒れる)する

・視界不良と判断された時

・その他危険と判断した時

として教官から生徒にアナウンスがなされ、参加する全員で納得しての出航だ。

ヨット3艇、救助艇1艇、支援艇クルーザー1艇にそれぞれ乗り込み、出航した。

波浮港を出てすぐにうねりと強風に阻まれ、エンジンも付いていない小さなレース用ヨットは翻弄される。大島東側にある筆島まで向かう予定でいたが航走ることができない。

 

けれど誰も諦めない。

 

「予報は好転しているからこれがマックスのはずだ、だからきっと良い経験になる」

 

「正直、怖い。これが冒険ですか。カイさんがチャレンジする立場ならどうしますか?」

 

「今、見てること、起こっていることをちゃんとミーティングで伝えよう」

 

いろいろな感情が正直に言葉になって出てくる。

 

部長自らトライアル中断を判断し「ハーバーバック!!!」と全艇につたえた。

 

“技術的に未熟な部分がある”  “計画に穴がある”

アドバイスという名の答えを彼らに手取り足取り教えて、なんとか一周できる技術を与えるのであれば僕たちインストラクターの出番はない。ここは海洋高校で、こんなにも恵まれた先生、設備、環境に囲まれている。

彼らの感情が動いていることがとても嬉しかった。

 

 

 

チャレンジすることの意味は、うまくやる方法を覚えることではなく、そこに起こる自分の感情の動きから自分を知り、なりたい自分を作る意思を固めて、その先のなりたい自分に進む過程だ。

彼らはチームをとして動く目標を掲げた。それに向かって進んでいけるに違いない。

 

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最終日、状況は悪い。

ふたたび条件付きの出航。

出航条件に、先に支援艇での海況判断が追加された。

朝に出たとしても、大島を一周するというチャレンジの時間が長いために時間との勝負にもなってくる。

午前中に出航できなければチャレンジ自体が成立しない。

一回目の出航、うねり、強風、視界不良、条件が悪すぎる。

支援艇から帰港を判断。

諦めなければならないのか・・?

もっともっとチャレンジしてもらいたい。

しかし条件を外すには海況が悪すぎる。支援艇から「現在は3艇でているが救援体制が今の状況では弱く、出航許可ができない。メンバー構成を考え直し、2艇での出航ならば救援体制が強化されるため許可できる。」とアナウンスがきた。

出航できる!!できるぞみんな!!と叫びたい気持ちを抑えみんなの判断を待つ。

艇を減らすと言うことは、応援に来てくれた3年生は艇に乗る機会がなくなる可能性があるのだ。

彼らは全員の了解を得て艇を減らし、2艇での出航を決定した。

時間は11:00これを逃したら日没までに帰ってくることはできないため、もうチャレンジできない。

 

出航。

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さっきより波が高くなっている。支援艇自体も大きな波での航行が困難なほどだ。

部長が支援艇に乗り込み、全艇に指示を出していく。

 

「今は三年生が乗っているからまだいける。このまま続行したい」

との申し出に

「三年生が乗っているということは、メンバーとしては最高の状態。いわば切り札だ。

切り札が残っていない状態での大島一周は危険すぎて中断の判断をせざるをえない」

 

生徒と支援艇の判断が割れた。

 

「インストラクターとしては判断が割れた場合、海の上では中止するというのが決まりだ。ハーバーバックをかけよう。いいかな。」

 

部長が「はい。」

と言い無線でハーバーバックをかける。

 

今回、大島一周チャレンジは成功とはならなかった。

 

戸惑いの中、自分たちで航路を切り開いていく過程を経験した彼らはどんな想いだろう。

 

片付けを終え、振り返りの時、「悔しい」「残念だ」という感想の中に

 

「またやりたい」

「チャレンジしたかった」

「最初はなんの意味があるかわからなかったけど、一つ一つに意味があることがわかった」

「チームとして協力できた」

「先輩と仲良くなれた」

「あっという間の五日間でチームとしても個人としても成長できた」

「意見の少ない部活だったけど、意見が出るようになった」

 

という感想が笑顔とともに出てきたことがとても嬉しかった。

 

セイリングの皆さん本当にお疲れさまでした。皆さんのチャレンジする姿勢にとても感動しました。

また、このような私たちにとっても大きなチャレンジに関われるチャンスをいただき、私たちのプログラムにご理解をいただき、多くのご協力をいただきました先生方にお礼申し上げます。

そして五日間、共に考え、助けてくれたインストラクターの仲間にありがとう、これからもよろしく!と伝えたい。

みなさん、本当にありがとうございました!!

 

帆船バカより

 

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