やりたいことは、やればいい

 

 こんにちは。ぶんごーです。

10月から11月にかけて、自由大学という東京、青山で社会人向けの学びの場を作っているところで「みんなの航海術」という講義をやってみました。

週に一度くらいの頻度で一時間半の座学を3回行い、その後、実際に帆船で1日航海します。
その航海の内容を座学の中で参加者の手でつくつていくというプログラムでした。

講義のようすについては参加者のレポートがサイトに上がっていますので興味のある方はご覧になってください

freedom-univ.com

で、今日はどうしてこのプログラムをやってみようと思ったかについて少し書いてみたいと思います。

〈できることと、でなきいこと〉

いま、ぼくたちスピリット・オブ・セイラーズが使用しているのは「Ami」という小型帆船で静岡県の沼津市を拠点に航海しています。
沼津の海は風が吹いてもあまり波が立つことがなく、大型船や定期船の航路からも離れていて、セイリングを楽しむにはとてもいい環境です。

一方で、サイズや装備の問題で船に大人数が宿泊するのは難しいです。
宿泊する航海を企画したいのですが、そうすると夜は陸で宿泊場所を確保しないといけなくなり、手間とかコストの問題でまだ実現できていません。

ぼくは元々「あこがれ」「海星」という二隻の帆船でボランティアクルーをしていました。
その船は外洋を航海することができ、20〜30人ほどのゲストが普通に暮らしていけるだけの設備を持っていました。
ちなみに「あこがれ」ではクルー、ゲスト合わせて50人が乗って補給なしで最長24日くらいの航海をしたことがあります。
(ちなみにその航海で最初に不足したのは、食料でも水でも燃料でもなくトイレットペーパーでした・・)

小型帆船には小型帆船の良さがあります。
船と海の距離感が圧倒的に近く、海をダイレクトに感じることができること。
風や波など自然条件への反応がセンシティブで、セイリング能力が高いこと。
操船した結果が船の動きにすぐに表れて、ゲストが自分の手で船を動かしているという実感が持てること。
船の運動性能がいいので、いろんな面でチャレンジがしやすいこと。

大きな帆船よりも小型帆船の方が楽しいしセイルトレーニングを行うのに向いている、ぼくはそう考えています。
ただ唯一のネックは宿泊も含めて長期の航海ができないことです。

もちろん、デイセイルだって楽しいです。
そして日本の働き方の現状では長い航海に出られる人は限られています。

これまでの日本のセイルトレーニング帆船は明らかにオーバースペックでした。
長期の航海ができる能力はあるものの、結局はデイセイルか週末の一泊二日の航海を中心に活動するしかありませんでした。
だって長い航海を企画してもお客さんこないんだもの。

そこも踏まえて、ぼくたちスピリット・オブ・セイラーズでは楽しいデイセイルを作ることを活動の中心に置いています。

でも実感として、船に2泊くらいしたあたりから参加者の感覚が変わってくるのです。
「船で暮らす」ことに慣れるということもあります。
航海で出会った人たちと一緒に何かをすることに慣れてきたこともあるでしょう。

日常のルールや関係性が消えて、帆船の時間の中でみんなが暮らすようになる。
それがセイルトレーニングの楽しさのひとつだとぼくは思っているのです。

〈やりたいことと、できたこと〉

スピリット・オブ・セイラーズとして活動をしていく中で、楽しいことはたくさんあったし、手応えも感じていたのですが「長い航海」ができないことが唯一引っかかってました。

船で長く時間を過ごすことは設備とか企画の状況から、またゲストの休みのとり方からもちょっと難しい。
ならばせめて、参加者たちがチームとしての実感を持てるようにしたい。
そういう思いから「みんなの航海術」という講義は生まれました。

自分としてのイメージとしては「3泊4日の航海を共にした」くらいのチームとしての一体感や帆船への知識、興味を持ってもらうことを講義の目標としていました。
座学だけで、どこまでその狙いが実現できるのかに不安はありましたが、企画を提案したところ自由大学からもよい反応があり、なんとか実現にこぎつけました。

講義を始めるにあたり考えていたこと、やりたいことはたくさんありました。
座学の中で航海への期待を引き出すというのは思った以上にハードルが高かったです。

企画段階から悩み続け、講義がスタートしてからも参加者の反応や講義の進捗状況から内容を細かく修正していきました。
ぼくの運営がいまいちなのか参加者からのリアクションや参加者同士のコミュニケーションがあまり活発でないことに悩んでもいました。

結局はやりたかったことの30%くらいしかできなかった気がします。
それでも、航海そのものは楽しんでもらえたのではないかと感じているので、そこが個人的には救いかなとも思います。

今回、土日の二日間沼津でのプログラムを予定していました。
土曜日は航海、日曜日は航海の振り返り、そういうスケジュールでした。

わざわざ座学を日曜日に沼津でやることにしたのは天候が悪くて土曜日に船を出せない場合の予備日という意味がありました。
実際に船も二日間押さえてありました。

今回はそれがピタリとあたりました。
土曜日の天気予報は雨。気温も低い。
それに比べて日曜日の予報は快晴で暖かい。

最終的に、前日金曜日の昼頃に決断しました。
参加者向けのメーリングリストで延期の連絡をしました。

面白かったのはここからです。
その日の夕方くらいからメーリングリストで参加者の間で大量のメッセージのやりとりが始まったのです。

参加者の多くは土曜日の夜に沼津に宿泊をとっていました。
日曜日の座学に備えるためです。
そして土曜日の航海がなくなったのでぽっかりと時間が空いたのです。
「延期になって空いた土曜日をどう使うか」このテーマでメーリングリストで様々なやりとりが行われました。

実のところ「アクシデント」というのはチーム作りにおいても重要な要素なのではと密かに考えていました。
なのでこの延期もプログラムの一つとして有効に使ってやろうと考えてはいたのです。

けれどどうやらその必要もなさそうなので成り行きに任せてみました。
参加者同士で沼津の街を観光する計画を立てたり、夕食のお店を決めたり、次々と予定が決まっていきました。

延期によっていろいろと予定が変わり、多くの人に迷惑をかけたのでこういう言い方は不謹慎なのですが、次々と流れてくるメールを読んでいて、

「ああ、延期にしてよかった」

と思ったりもしました。

リーダーが指揮するのではなく参加者個々の結付きから生まれるコミュニケーション。
それが生まれるように講義をデザインしたつもりでした。
結果としてそういう関係性は生まれましたが、講義の中からではなくアクシデントからそうなったことは、個人的にはちょっと悔しい気もしますが。

〈やりたいことは、やればいい〉

スピリット・オブ・セイラーズの基本姿勢は、メンバーそれぞれが面白いと思うことをどんどん実現していけばいい、ぼくはそう思っています。
今回の「みんなの航海術」も、ボランティアクルーとして「あこがれ」や「海星」でやってきたことを再現してみたいという動機からスタートしました。

もちろんやりたいことが全てできるわけではなく、企画としての面白さや実現へ向けての段取り、収益への目配りは絶対必要なのですが。
でも基本的には「やりたいのにやってはいけないこと」はない、そう考えています。

そしてそれはセイルトレーニングに出会うなかでぼくが学んだことでもあります。

現実の船は超絶たて型の階級社会です。
それは船を安全に運用するためには必要なことです。
もちろん帆船でもそれは同じこと。
船長を頂点とした縦型の組織であることは変わりません。

それと同時に帆船は自由でもあるのです。

船の運航や毎日の生活の中で、参加者がやってみたいと思ったこと、知りたいと思ったこと、そんな思いを組み上げて実現していくシステム。
ぼくが関わった日本のセイルトレーニング帆船にはそういう考え方も息づいていました。

高校の卒業式を船上で迎えた男の子のために船上卒業式を企画したことがありました。
仮装パーティーをやったこともありました。
年越しの航海で除夜の鐘代わりにシップベルを108回叩いたこともありました。
船上凧揚げもしましたし、マストから海に飛び込んだりもしました。

もちろん、やろうとしてできなかったこともたくさんありました。
でもそれは時間だったり、天気だったり、海の状況だったり、どうしてもできないことでした。

「やりたいことは、やればいい」
ぼくは最初はクルーではなく、一参加者としてセイルトレーニングを受けました。
そして学んだのはこのことでした。

帆船という非日常に場に身を置くことで湧いてくる「やってみたい」
やってみればいいのです。
やってはいけないことなんてないし、最初からできないと決めつける必要もありません。

ぼくたちスピリット・オブ・セイラーズはそんな思いでこれからもチャレンジしていきます。